こころ澄まし香を聞くとき有り難し 一炷(いっちゅう)の間の極楽浄土
滴塵010
本文
形式
カテゴリ
ラベル
キーワード
要点
現代語訳
心を澄ませて香を聞くとき、その一瞬に極楽浄土を感じる。ありがたい。 注釈
香を聞く: 香を焚き、その香りを嗅ぐこと(雅な表現)。
一炷の間:香一本の燃え尽きる間の短い時間。
解説
香を媒介にした短歌で、心を澄ませる瞬間の信仰体験を描写。僅かな時間(香一炷の間)に極楽浄土の感覚を味わう描写は、日常の中で仏法や浄土を体感する象徴的瞬間を表す。香の匂い、心の集中、短い時間の濃密さが重なり、読者に瞑想的体験を擬似的に提供する。形式の簡潔さと内容の豊かさが対比され、短歌ならではの圧縮表現の美を示している。 深掘り_嵯峨
激しい情念の歌(滴塵007, 008)と、存在への問い(滴塵009)の後で、この歌は一瞬の安寧と日常の中の悟りを示しています。 「心澄まし」て香という五感の一つに集中するだけで、長い修行の果てに得られるはずの極楽浄土が、「一炷の間」という極めて短い「今ここ」に現出するという境地を歌っています。これは、「刹那の永遠」や「瞬間の悟り」といった、禅や浄土思想にも通じる、心の持ち方一つで世界が変わるという真理を静かに表現しています。